保湿剤は「ふた」だけじゃない ― 3つの役割と、塗るタイミングの話
肌科学コラム

保湿剤は「ふた」だけじゃない ― 3つの役割と、塗るタイミングの話

秋になって、部屋で暖房を使いはじめた。

化粧水もクリームも、いつもどおり塗っている。

それなのに、前よりすぐ肌がつっぱる気がする。

お店で「高保湿」と書かれたクリームを3つ手に取り、成分表を見比べてみた。

でも、何がどう違うのか、よくわからない。結局、そのまま棚に戻してしまった。

気温と湿度がいっしょに下がる季節は、肌の「壁」の働きが全体として落ちやすく、外からの刺激にも反応しやすくなる。そんな研究をまとめた論文があります[5]。

前回は、「熱いお湯+洗浄成分」の組み合わせが、この壁の負担になりやすいというお話をしました。今回はその続き、洗ったあとに塗る「保湿剤」の話です。

前回の最後には、「洗ったあと、いつ、どう塗るのがいいのでしょうか?」という問いを残していました。

保湿剤は、実はひとつの働きだけをするものではありません。研究をのぞくと、意外な事実も見えてきます。

4コマ漫画の1コマ目。秋の夕方、暖房のある部屋でソファに座ったミナが、頬に手を当てて首をかしげ「秋になったら、塗ってもすぐつっぱる…」。
4コマ漫画の2コマ目。ミナが無地の白いチューブからクリームを手の甲に出し、少し困った表情で「こってりクリームでふたしたら、肌のじゃまにならない?」。
4コマ漫画の3コマ目。翌日のオフィスで、ハダ先輩が笑顔で手を広げながら「じゃまにならなかった、って研究があるんだって」。ミナは驚いた表情。
4コマ漫画の4コマ目。お風呂上がり、髪をタオルで包みバスローブを着たミナが、目を閉じて頬に手を当て、穏やかな表情で「お風呂上がり、しっとりしているうちに塗ってみよう」。

秋の保湿、こんな経験ありませんか?

よく聞く、保湿の「常識」

乾燥する季節は、保湿を続けるほど肌が丈夫になる。

こってりしたクリームは、肌にふたをして重たくなりそう。

お風呂上がりは、3分以内に塗らないといけない。

どれも、一度は聞いたことのある話かもしれません。

保湿は大切。それは、多くの方がよく知っていることだと思います。

でも、保湿剤の中身をのぞいてみると、話はもう少しおもしろくなります。まずは、保湿剤が何をしているのかを見てみましょう。

保湿剤には、3つの「役割」がある

保湿剤の成分は、役割によって大きく3つのグループに分けられます[1]。

ひとつめは、水を「引き込む」成分です。空気中や肌の内側から上がってくる水分を、肌のいちばん外側の角層へ引き寄せます[1]。

前回お話しした、うすい「壁」のいちばん外側です。そこへ水を集めるのが、この成分の役目です。

ふたつめは、肌を「やわらげる」成分です。おもに油分で、肌の表面をやわらかく、なめらかにします[1]。

乾燥してごわついた肌の表面を、なめらかに整えるイメージです。

みっつめは、「ふたをする」成分です。油やワックスが肌の表面にうすい膜をつくり、水分が蒸発するのを防ぎます[1]。

身近なところでは、ワセリンがこの「ふたをする」タイプに分けられます[1]。

3人の働き手にたとえると、わかりやすいかもしれません。水を運ぶ人、表面をならす人、そして屋根をかける人です。

3つのうち、どれがいちばんいいというものではありません。役割が違うだけです。

保湿剤の3つの役割を、レンガの塀の上で働く3人の働き手にたとえたイラスト。左の働き手はバケツの水を塀にたらし「引き込む」、まん中の働き手は塀の上を布でふいて表面をならし「やわらげる」、右の働き手は大きな布を塀にかぶせて「ふたをする」。レンガには点の目と口のやさしい顔が描かれ、いくつかのレンガの中には水色のスポンジが見える。

保湿剤の3つの役割を、3人の働き手にたとえると

ここで気をつけたいのは、引き込む成分だけでは足りない場面があることです。

空気が乾いていると、肌の内側から引き寄せた水分が、そのまま外へ逃げてしまうことがある。総説論文では、そう説明されています[1]。

そのため、引き込む成分は、ふたをする成分といっしょに使われることが多いとされています[1]。

ふたのない鍋でスープを温めていると、少しずつ湯気が逃げて、煮詰まっていきますよね。ふたをすると、湯気はなかなか逃げません。

保湿剤の「引き込む」と「ふたをする」の関係も、イメージとしてはこれに近いのかもしれません。

コンロにかけた2つの鍋を並べたイラスト。左の「ふたなし」の鍋からは湯気がたくさん立ちのぼり、右の「ふたあり」の鍋からは、小さな湯気が少し出ているだけ。

ふたをすると、湯気は逃げにくい

保湿剤を選ぶとき、成分表に並ぶたくさんの名前も、「この3つのどれかな?」と考えながら見ると、少し身近に感じられるかもしれません。

意外な事実① ふたをしても、肌の「じゃま」にはならなかった

こってりしたクリームを塗ると、肌が息苦しくなりそう。そんなイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。

油分が多くて重たく感じるクリームは、肌によくなさそう。そう感じる方もいるかもしれません。

肌がゆらぎやすい時期ほど、「ふたをしたら、肌の働きをじゃましそう」と感じるかもしれません。

海外の研究では、アセトンで肌のバリアをわざと弱めたあと、ワセリンを塗った部分と塗らなかった部分を比べました[2]。

その結果、ワセリンを塗った部分でも、バリアが元の状態に戻っていく流れは遅くならなかったと報告されています[2]。

この実験は、人の肌で行われたものです。

この研究では、ワセリンは肌の表面をぴったり覆うのではなく、角層のすき間に入りこんでいたことも観察されています[2]。

「ふたをする=肌が息をできなくなる」というわけではなかったのです。

もちろん、どんな塗り方でもいいという意味ではありません。使い心地や肌との相性は、人それぞれです。

意外な事実② 長く塗り続けるほどいい、とは限らない

「保湿は、毎日しっかり続けるほど肌が丈夫になる」。そう思っていませんか。

健康な肌の大人を対象に、保湿剤を腕に7週間塗り続けて比べた研究があります[3]。

その研究では、5種類の塗り物を比べました。そのうち、実験用に成分を少なくしたクリームなどでは、肌から逃げる水分がかえって増え、ふだん使われている処方のクリームでは減ったと報告されています[3]。

同じ「保湿剤」でも、中身の組み合わせによって、肌の反応は変わるということです。

ただし、これは健康な肌の人を対象にした結果です。乾燥が気になる肌でも同じになるかは、この研究だけでは言えません。

それでも、「保湿剤なら、どれでも同じ」「続ければ続けるほどいい」とは言い切れない。そのことは、覚えておいてよさそうです。

長く続けること自体が悪い、という意味ではありません。中身によって結果が変わる、ということです。

「続けていれば安心」ではなく、自分の肌に合うものを選ぶことが大切です。

肌の様子を見ながら、心地よく続けられるものを選びたいですね。

塗るなら、肌が少ししっとりしているうちに

では、保湿剤はいつ塗るのがいいのでしょうか。

総説論文では、ふたをする成分は、乾いた肌より、少し湿った肌に塗るほうが働きやすいと説明されています[1]。

お風呂やシャワーのあと、肌がまだ少ししっとりしているうちに塗る。今日からすぐにできる、いちばん簡単なタイミングです。

「3分以内」でなくてもいい?

「お風呂上がりは3分以内に塗らないと意味がない」と聞いたことがあるかもしれません。

「急がなきゃ」と思うと、お風呂上がりがあわただしくなりますよね。

ただ、「3分」という時間そのものの根拠は、まだ多くありません[4]。

18〜25歳の健康な60人を対象にした小規模な研究では、洗ってすぐ塗った場合と、30分後に塗った場合とで、保湿の差は見られなかったと報告されています[4]。

必ずしも3分以内でなくてもよいという研究もある、ということです。あせらず、肌がしっとりしているうちを目安にしてみてください。

※小規模な研究による報告で、今も研究が続いています。

成分の名前を覚えなくても大丈夫です。「引き込む・やわらげる・ふたをする」の3つを思い出すだけで、保湿剤の見え方が少し変わるはずです。

保湿剤は、「肌にふたをするだけのもの」でも、「長く塗るほどいいもの」でもありませんでした。

3つの役割がいっしょに働くことで、保湿剤は肌をなめらかに保ちます。今夜のお風呂上がりから、塗るタイミングを少し意識してみませんか。

気になる症状が続くときは、皮膚科に相談しましょう。

次回予告

次回も、毎日の過ごし方にひそむ「意外な事実」をお届けします。冬の肌と上手につき合うためのヒントを、また一緒にのぞいていきましょう。

参考文献

[1] Sethi A, et al. Moisturizers: The Slippery Road. Indian J Dermatol. 2016;61(3):279-287. doi:10.4103/0019-5154.182427(PMID: 27293248)

[2] Ghadially R, et al. Effects of petrolatum on stratum corneum structure and function. J Am Acad Dermatol. 1992;26(3 Pt 2):387-396. doi:10.1016/0190-9622(92)70060-s(PMID: 1564142)

[3] Buraczewska I, et al. Changes in skin barrier function following long-term treatment with moisturizers, a randomized controlled trial. Br J Dermatol. 2007;156(3):492-498. doi:10.1111/j.1365-2133.2006.07685.x(PMID: 17300239)

[4] Nguyen KH, et al. Moisturizing effectiveness of immediate compared with delayed moisturization. J Cosmet Dermatol. 2022;21(10):5134-5140. doi:10.1111/jocd.15003(PMID: 35435321)

[5] Engebretsen KA, et al. The effect of environmental humidity and temperature on skin barrier function and dermatitis. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2016;30(2):223-249. doi:10.1111/jdv.13301(PMID: 26449379)

[6] American Academy of Dermatology. Dermatologists' top tips for relieving dry skin. https://www.aad.org/public/everyday-care/skin-care-basics/dry/dermatologists-tips-relieve-dry-skin

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