
一晩の寝不足、顔はもう知っている ― 忙しい週ほど「眠る時間」を先に決めたい理由
締め切りが続く一週間。「今日こそ早く寝よう」と思いながら、パソコンを閉じるころには日付が変わっている。
秋が深まると、年末に向けて予定が少しずつ増えていく。仕事の締め切りに、家のこと、人との約束。
気がつけば、いちばん先に削られているのは、眠る時間だった。
布団に入っても、明日の段取りが頭の中でぐるぐる回る。
翌朝、洗面台の鏡で顔を見てみる。
少し眠いけれど、見た目はいつもと変わらない。そう思って、いつもどおり家を出る。
疲れているのは、自分だけが知っていること。顔に出るのは、寝不足がもっと続いてからのはず。
1話では熱いお湯と洗浄成分の組み合わせ、2話では保湿剤の3つの役割、3話では日焼け止めの数字の読み方をお話ししました。
今回は、肌に何かを塗る話ではありません。毎日の「眠り」と肌の話です。




「顔はいつもどおり」と思った朝、ありませんか?
よく聞く、寝不足と肌の「常識」
寝不足は、何日も続いてはじめて肌に出てくるもの。
一晩くらいなら、疲れているのは自分だけで、まわりの人にはわからない。
どちらも、よく聞く話です。忙しい時期ほど、こう考えて、つい夜更かしを続けてしまうこともあるかもしれません。
そして、どちらも半分は正しい話です。
どちらも、自分の体の感覚から出てきた、自然な考え方です。
一晩で、鏡の中の顔がはっきり別人のように変わるわけではないからです。
ただ、研究を見てみると、肌と顔は、思っていたよりも早く、前の晩のことを映しているようです。
意外な事実① 一晩眠らないだけで、肌のバリアが元に戻るまでに時間がかかった
米国コーネル大学の研究チームが、健康な女性を対象に行った実験があります。
肌のいちばん外側には、うるおいを逃がしにくくする「バリア」があります。1話でお話しした、あのバリアです。
実験では、肌の表面を粘着テープで何度かはがして、バリアをわざと弱めた状態にしました。そこから元の状態に戻っていく様子を調べています。
11人の女性が一晩眠らずに過ごしたときは、バリアが元に戻るのが遅くなったと報告されています。
同じ研究では、実験室で面接を受けるという緊張する場面でも(25人)、バリアが元に戻るのが遅くなったと報告されています。
一方で、3日間運動をした人たち(10人)では、バリアが元に戻る速さに影響は見られなかったと報告されています。
この実験では、運動を続けたあとには、同じような変化は見られませんでした。
肌が元に戻る速さは、肌の上だけで決まるのではなく、眠りや緊張といった、体全体の状態とも関わっているようです。
この実験は、「一晩、眠りを奪われる」という条件で行われました。ふだんの少しの夜更かしと、まったく同じではありません。
それでも、何日も続けなくても、一晩で差が出たという点は、少し意外ではないでしょうか。
肌は、前の晩の過ごし方が書き込まれていく「成績表」のようなもの。イメージとしてはこれに近いのかもしれません。
意外な事実② 眠らずに過ごしたあとの顔は、知らない人にも「疲れていそう」と見えた
スウェーデンのカロリンスカ研究所でも、寝不足と顔についての実験が行われています。
健康な大人23人に協力してもらい、ふだんどおり眠ったあとと、31時間起き続けたあとの2回、顔写真を撮りました。
その写真を、写っている人を知らない65人が、どちらの写真かを知らされないまま見て評価しました。
同じ人の、眠ったあとと眠らなかったあとの写真を比べるので、顔立ちの違いではなく、寝不足による違いを見ることができます。
これは、誰が眠っていないかを当てる実験ではありません。それぞれの写真が、どのように見えるかを評価してもらう実験です。
すると、寝不足のあとの写真は、「あまり健康そうに見えない」「疲れていそう」「あまり魅力的に見えない」と評価されたと報告されています。
評価は、100ミリの線の上に印をつけてもらう方法です。平均は、「健康そうに見えるか」が68と63、「疲れていそうか」が44と53、「魅力的に見えるか」が40と38でした(前がふだん眠ったあと、後が寝不足のあと)。
差は、どれも大きなものではありません。一目で別人のようになるわけではない、ということです。
また、条件は「31時間起き続けたあと」です。少しだけ眠りが短かった、という夜とは違います。
それでも、写っている人を知らない人たちが、写真を見ただけで、寝不足のあとの顔を「疲れていそう」と評価していました。
鏡の前で「いつもと変わらない」と思った顔も、まわりからは、少し違って見えているのかもしれません。
「疲れているのは自分だけが知っている」は、半分だけ正しい話でした。自分では「いつもどおり」と思っていても、まわりからは少し違って見えることがある、ということです。
もうひとつ:緊張が続く時期の、小さな傷
歯学部の学生11人を対象にした研究もあります。
これは肌ではなく、口の中、上あごの粘膜の話です。
休みの期間と、試験の3日前の2回、上あごに同じ大きさの小さな傷をつけ、ふさがるまでの日数を比べました。
試験前のほうが、ふさがるまでに平均で3日、およそ40%長くかかったと報告されています。
肌そのものの研究ではないので、そのまま肌に当てはめることはできません。
それでも、緊張の続く時期の小さな変化を「気のせい」とだけ思わなくてもよい、ひとつの手がかりにはなりそうです。
疲れているのに、つい起きていてしまう夜
一日じゅう仕事に時間を使った日の夜。疲れているのに、なかなか布団に入らず、スマホやテレビを見つづけてしまうことはありませんか。
寝ようと思っていた時間を過ぎても、特に理由なく起きている。研究の世界では、これを「寝る時間の先延ばし」と呼んでいます。
オランダで、寝る時間をよく先延ばしにする17人に話を聞いた研究があります。
その中には、「自分のための時間があっていいはずだ」と感じて、わざと寝る時間を遅らせていた人たちがいました。
日本でおこなわれた630人の調査では、寝る時間を先延ばしにする傾向が強い人ほど、平日の睡眠時間が短く、眠りの質も低い傾向がみられました。
寝る時間を先延ばしにする傾向そのものは、40歳以下の人でより強くみられました。
夜の「自分の時間」は、もちろん大切です。ただ、その分だけ眠る時間が削られていきます。
肌や顔にどんな差が出たかは、前半で紹介した実験のとおりです。
疲れている夜ほど、スマホやテレビは明日の楽しみにとっておいて、先に眠ってみませんか。
忙しい週ほど、「眠る時間」を先に決めておく
ここまでの研究をふまえて、この記事では、ひとつの習慣をおすすめします。
忙しい予定が続く週ほど、まず睡眠時間を先に確保する、ということです。
なぜ「先に」なのか。ひとつ目の実験では、何日も続けなくても、一晩で差が出ていました。
「寝不足が続いてきたら、まとめて眠ろう」と考えていると、そのときにはもう、何晩かが過ぎているかもしれません。
予定が詰まると、眠る時間は「残った時間」になりがちです。仕事や家のことを全部終えてから、空いた分だけ眠る。
その順番を、逆にしてみます。週のはじめに、「この週は、この時間には布団に入る」を先に決めてしまうのです。
手帳やカレンダーに会議の予定を書くのと同じように、眠る時間も予定のひとつとして書き込んでおくのも、ひとつの方法です。

眠る時間も、予定のひとつとして書き込んでおく
たとえば、遅くまでかかりそうな日がわかっている週は、その前の日と次の日の眠る時間を、先に決めておきます。
会食や飲み会の予定を入れるときも、「この日は何時までに帰る」を一緒に決めておくと、眠る時間を守るきっかけになります。
毎晩を完璧にする必要はありません。先に決めておくと、新しい予定を入れるときに、眠る時間を思い出すきっかけになります。
肌のために何かを始めるなら、まず眠る時間から。この記事でお伝えしたいのは、そのことです。
まとめ
一晩眠らないだけで、肌のバリアが元に戻るまでに時間がかかったという実験がありました。
31時間起き続けたあとの顔写真は、差は小さくても、知らない人から「疲れていそう」「あまり健康そうに見えない」と評価されたと報告されています。
肌の研究ではありませんが、試験前の緊張が続く時期には、口の中の小さな傷がふさがるまでに時間がかかったという研究もありました。
疲れは、自分で思っているよりも早く、外から見える形で表れているのかもしれません。
疲れた夜に、自分の時間がほしくて、つい寝るのが遅くなる。そんな夜が、思っているより多いのかもしれません。
忙しい時期ほど、眠る時間は後回しになりがちです。だからこそ、先に決めておきたいのです。
疲れを隠す方法を探すより、眠る時間を先に取っておく。順番を少し変えるだけの、小さな習慣です。
今夜は、今週の予定の中に、布団に入る時間をひとつ書き込んでみませんか。
気になる症状が続くときは、皮膚科に相談しましょう。
次回予告
次回も、毎日の過ごし方の中にある、肌と関わりの深い習慣を取り上げます。冬に向けて慌ただしくなる季節を、一緒に心地よく過ごしていきましょう。
参考
米コーネル大学、スウェーデン・カロリンスカ研究所などによる、ヒトを対象にした実験研究や調査研究の論文をもとに、編集部でまとめました。