
年齢を重ねた肌の菌は、「減る」のではなく「変わる」― 肌にすむ小さな住人たちの話
秋が深まり、朝晩の空気がひんやりしてきたころ。
朝、鏡の前で、なんとなく肌の調子がいまひとつに感じる日。
「今日はいつもより、しっかり洗っておこう」。泡をたっぷり立てて、念入りに顔を洗う。
肌の上には目に見えない菌がいて、それをきちんと落とすほど、肌は清潔になる。なんとなく、そう思っている。
タオルで顔をふきながら、ふと考える。
年齢とともに、肌は少しずつ変わっていく。だとしたら、肌の上にいる菌も、年齢とともに減っていくのだろうか。
1話では、熱いお湯と洗浄成分の組み合わせについてお話ししました。
今回は、何かを洗ったり塗ったりする話ではありません。肌の上に、もともとすんでいるものの話です。




年齢とともに、肌の菌は減っていく?
よく聞く、肌と菌の「常識」
菌は、目に見えない汚れのようなもの。少なければ少ないほど、肌は清潔で健康。
年齢を重ねて肌が変わっていけば、肌の上の菌も、だんだん少なく、単純になっていく。
どちらも、なんとなくそう思っている人が多い考え方かもしれません。
そして、どちらも半分は正しい話です。
外から入ってきて、病気の原因になる菌もいます。顔を洗って汚れを落とすことは、毎日の大切な習慣です。
年齢とともに肌が変わっていくのも、たしかなことです。
ただ、研究を見てみると、肌の上の菌の世界は、思っていたよりずっとにぎやかです。そして、年齢とともに少しずつ顔ぶれを変えていくようです。
意外な事実① 年齢を重ねた肌のほうが、すんでいる菌の種類が多かった
肌の表面は、乾いていて、栄養も少なく、酸性の環境です。
菌にとっては、決して暮らしやすい場所ではありません。
それでも、肌はさまざまな菌のすみかになっていると、研究で報告されています。
皮膚の研究では、肌にもともとすんでいる菌(常在菌)と、外から入ってきて病気の原因になる菌を、分けて考えます。
もともとすんでいる菌たちは、外から来る菌と競い合っていて、外から来る菌が入りこみにくくなっている面もあると、総説で報告されています。
では、年齢を重ねると、この菌たちはどうなるのでしょうか。
肌が変わっていくのなら、菌も少なく、単純になっていきそうです。
ところが、年齢を重ねた人の肌のほうが、すんでいる菌の種類が多かったという報告が、いくつもあります。
日本人の女性を調べた研究などが、肌の菌についての総説の中で紹介されています。
ひとつの研究だけではなく、複数の研究で同じ向きの結果が報告されているという点が、この話の大切なところです。
なぜそうなるのかは、まだはっきりしていません。皮脂の出かたや、肌の酸性度の変化など、いくつかの要因が重なっていると考えられ、研究が続いています。
ただし、種類が多いことが「良い」のか「悪い」のかは、まだ言えません。
研究から見えてくるのは、種類が「減る」というより、顔ぶれが「変わる」という姿です。
肌を、ひとつの小さな町だと考えてみます。
長い年月がたった町ほど、いろいろな人が住むようになって、住人の顔ぶれも変わっていく。イメージとしてはこれに近いのかもしれません。
意外な事実② 若い人と年齢が上の人では、菌の顔ぶれの割合が違っていた
肌の上の菌の顔ぶれは、一度決まったら、ずっと同じなのでしょうか。
これについても、若い人と年齢が上の人を比べた研究があります。
西ヨーロッパの女性34人の、おでこの肌を調べた研究です。
21〜31歳の17人と、54〜69歳の17人を比べています。
54〜69歳の人たちでは、プロテオバクテリアという菌のグループの割合が多くなっていました。
反対に、アクチノバクテリアという菌のグループの割合は、少なくなっていたと報告されています。
名前は覚えなくても大丈夫です。
ここでのポイントは、どの菌がどのくらいの割合でいるか、という顔ぶれそのものが、年齢によって違っていたということです。
この研究も、どちらの菌が良い・悪いを決めるものではありません。
対象は34人と多くはなく、おでこという一か所を、一度に比べた研究です。すべての人の、すべての場所に、そのまま当てはまるわけではありません。
それでも、「肌の菌は、ずっと同じまま」という思い込みとは、少し違う姿が見えてきます。
年齢を重ねた肌では、肌の上の小さな住人たちの顔ぶれも、若いころとは違っているようです。
鏡の前で「菌も減っていくのかな」と思った朝の答えは、「減る」より「変わる」に近いのかもしれません。
もうひとつ:右手と左手でも、すんでいる菌は違う
手のひらの菌を調べた研究もあります。
健康な若い大人51人の手のひらを調べたところ、片方の手のひらに、平均で150種類をこえる菌が見つかったと報告されています。
これは、病気の原因になる菌だけを数えた数ではありません。手のひらで見つかった菌を、すべて合わせた種類の数です。
さらに、同じ人の右手と左手でも、すんでいる菌の種類が重なっていたのは、平均で17%でした。
別の人どうしになると、平均で13%まで下がったと報告されています。
これは、まだ研究が続いている分野の、ひとつの調査の結果です。
それでも、手は、思っていたよりずっと、それぞれに違う菌の顔ぶれをもっているようです。

同じ人の右手と左手でも、菌の顔ぶれは違っていました
頬やあごを、手であまり触らない
最後に、今夜からできる小さな習慣を、編集部からひとつ提案します。
今夜から、頬やあごを手であまり触らないようにしてみましょう。
考えごとをするとき、ほおづえをついたり、あごに手をやったり。
気づかないうちに、顔に手が伸びていることがあります。
メイクを直すとき、髪をかき上げるとき、電話をしながら。顔のまわりに手が行く場面は、一日の中に意外とたくさんあります。
手は一日じゅう、いろいろなものに触れています。
顔を触る回数と肌の菌の関係を、直接調べた研究ではありません。自分のくせに気づくための、小さな習慣です。
菌をなくすため、ではありません。肌にすんでいる菌の多くは、敵ではないからです。
顔に手をやる回数を、少しだけ減らしてみる。それだけの、小さな習慣です。
まずは、自分がどんなときに顔を触っているのかに、気づくことから始めてみてください。
ほおづえに気づいたら、手をひざの上に戻す。
スマホを見るときは、両手で持つ。そんな小さな工夫からで十分です。
毎回完璧にする必要はありません。気づいたときに、手をそっと下ろすだけでかまいません。
まとめ
肌の表面は、菌にとって暮らしにくい環境です。それでも、肌はさまざまな菌のすみかになっていると報告されています。
そして、その多くは、なくすべき相手ではありません。
年齢を重ねた人の肌のほうが、すんでいる菌の種類が多かったという報告が、いくつもあります。
西ヨーロッパの女性34人のおでこを調べた研究では、若い人と年齢が上の人とで、菌のグループの割合が違っていたと報告されています。
手のひらには、片方の手だけでも、平均で150種類をこえる菌が見つかったという調査もありました。
同じ人の右手と左手でさえ、すんでいる菌の顔ぶれは大きく違っていました。肌の上の世界は、思っているよりずっと、人それぞれなのかもしれません。
年齢を重ねた肌の上の小さな住人たちは、「減る」というより、顔ぶれが「変わる」。そう考えると、鏡の中の肌も、少し違って見えてくるかもしれません。
今夜は、考えごとをするとき、頬やあごに伸びた手を、そっとひざの上に戻してみませんか。
気になる症状が続くときは、皮膚科に相談しましょう。
次回予告
次回も、肌について最近の研究で報告されていることを、毎日の暮らしに引き寄せてお話しします。寒さが深まる季節を、一緒に心地よく過ごしていきましょう。
参考
Byrd AL, et al. Nature Reviews Microbiology誌 2018年の総説、およびBoxberger M, et al. Microbiome誌 2021年の総説をもとに、編集部でまとめました。おでこの菌の研究は Jugé R, et al. Journal of Applied Microbiology誌 2018年、手のひらの菌については Fierer N, et al. PNAS誌 2008年の調査研究を参考にしました。